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金属樹脂直接接合

金属と樹脂を接合する新技術で
ものづくりの可能性を広げる

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梶原 優介 教授(生産技術研究所)

近年、自動車業界を筆頭に製造業において部品の素材を金属から樹脂に置き換える動きが急速に進んでいる。主な目的は軽量化だが、ほかにも絶縁性を高めたり、コストダウンが可能になったりするなど、さまざまなメリットがあることがその理由だ。しかし、当然ながらすべての金属を樹脂に置き換えることはできない。そのため、製造工程において金属と樹脂を接合しなければならない箇所が必然的に増えてくる。特に自動車のような大型の製品には、金属と樹脂の接合点が無数にある。異素材同士を強固に接合するのは難しい。従来は接着剤やネジ留めが使われていたが、どうしても手間と時間がかかってしまう。そこで注目を集めているのが、梶原優介教授が研究している成形接合技術だ。

「手法自体は実にシンプルです。金属表面に数10nmから数100µmの微細構造を作り、そこに溶かした樹脂を流し込むことで、互いが引っ掛かるアンカー効果が生まれ、金属と樹脂を強固に接合できるというわけです。この技術には成形と接合を同時に行うことで、工程数を減らせるというメリットもあります」

金属と樹脂を接合する簡便な手法を開発

図版1
図1)熱水処理で現れた金属表面の微細構造
図版2
図2)アンカー効果による成形接合
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微細構造を作るには、レーザで多数の穴を開けたり、薬品処理で酸化させたりする方法がこれまで使われてきた。しかし、レーザ処理は制御性に優れるものの手間がかかる。薬品処理は環境負荷が大きく導入が難しい。そのため、新たな方法が求められていた。そこで梶原教授が着目したのが、熱水処理という方法だ。
「高温の純水に金属を浸すと、ほとんどの金属で表面に酸化物や水酸化物の微細構造が発生します。既知の現象でしたが、これまで成形接合では応用されていませんでした。そこで実際に熱水処理した金属と樹脂を結合させてみたところ、実用に十分に耐える強度が得られたのです。電子顕微鏡で接合面を観察したところ、アンカー効果が生まれていることも確認できました。さらに、アルミニウム合金を使った場合、表面に水酸基ができるため、水素結合により接合がさらに強固になることもわかっています」

熱水処理を用いた成形接合は、特に自動車製造において有用な技術だ。自動車には、防錆・防食のために金属表面を亜鉛で覆った亜鉛メッキ鋼材という材料が多く使われる。しかし、メッキ層は数10µmと非常に薄いため、レーザ加工ではメッキ層が破壊されてしまうという問題があった。だが、熱水処理であれば表層の1µm以下の領域に微細構造を作ることができるため、メッキ層を傷つけてしまう心配はない。熱水処理された亜鉛メッキ鋼材と樹脂を成形接合した結果、自動車部品に必要とされる20 MPa以上の引張せん断強度が得られた。
「研究室では、砥粒(とりゅう)を噴射して微細構造を作るブラスト処理と熱水処理を組み合わせたハイブリッドな技術も開発しています。この技術は最近発売された電気自動車の一部の部品接合に採用されました」

半導体などナノ分野への応用も模索

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熱水処理を使った成形接合技術の社会実装は進んでいるが、まだ改善の余地が多く残されていると梶原教授は語る。
「金属と樹脂の組み合わせによっては、熱による収縮率の違いで強度が下がるなど素材同士の相性を検討することも重要ですし、樹脂の流動性も強度に影響します。最近では、微細構造の粗さが接合の強度にどのように影響するかを調べており、レーザ顕微鏡の画像データから機械学習によって強度を予測する方法を開発中です。このように、成形接合の仕組みはシンプルですが、さまざまなパラメータが強度に影響するため、各要素の最適解を見出して、より強固な接合を実現したいと考えています」

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成形接合はナノスケールの技術であるため、自動車のような大型工業製品だけでなく、精密機器にも応用可能だ。現在、梶原教授が検討しているのは半導体分野への応用だ。
「半導体のシリコンチップを基盤に固定する際には、リードフレームという銅製の部品が使われます。それと封止樹脂の密着性を高めるのに成形接合が有用なのです。成形接合は歴史の浅い技術ですが、それだけに伸び代があります。この技術を発展させれば、設計の自由度を大きく高められます。それにより、これまで不可能とされていたような製品を作れるようにしたいと考えています」

初出:2025年度精密工学専攻パンフレット
関連リンク:梶原研究室

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