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形状処理工学

X線CT装置を駆使して
高度な設計・製造を支援 大竹 豊 教授
(精密工学専攻)

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画像処理を専門とする大竹豊教授は、X線CT装置で撮影した画像からさまざまな情報を引き出すべく独自のアルゴリズムを開発。工業製品に応用することで、リアルとデジタルを融合させた新たなものづくりの実現を目指している。


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「現代の製造業では、機械の部品を3D-CADで設計するのが主流です。しかし、データをもとにいざ部品を作ってみても、できたものが設計と異なることは多々あります。例えば、鋳造した際、内部の見えないところに亀裂が入っているといったことが少なくないのです。そのため、我々は実際に製造された製品をX線CT装置で3Dスキャンを行なって寸法などのデータを解析し、それをもとにより良いものづくりにつなげる方法を研究しています。

X線CT装置による実測データには、多くのノイズが含まれています。それを高速かつ高精度に除去する形状処理アルゴリズムを作成することが現在の大きなテーマです。我々は“頑健な”と表現していますが、その後、さまざまに活用できる意味のあるデータを抽出することを目標としています。

また、アルゴリズムを工夫することで、データからさまざまな情報を読み取ることができます。例えば、凹凸の程度や密度の違いによって色分けすることで形状や構造の把握に役立てることができます。それを応用すれば、エンジンのように複雑に組み上げられた製品を部品ごとに判別したり、歯車などの部品の動きや摩擦をシミュレーションしたりすることも可能になります。

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現在は自動車丸ごと1台分の大容量のCTスキャンデータをスピーディに解析するシステムの開発に取り組む一方、小さな電子部品の組み立て精度の解析を行うなど、幅広いスケールの工業製品を対象に研究を続けています。また、大型放射光施設「SPring-8」にあるX線CTを使ったスキャニングに取り組むなど、最先端の技術を取り入れた画像解析にも力を入れています。

図版1a
図1)海外にある超大型のX線CT装置で車1台を丸ごとスキャン。そのままではノイズだらけだが、独自の画像処理をほどこすことで内部構造が鮮明に浮かび上がる。
図版1b 図版2
図2・下)「SPring-8」にある最先端X線CTの性能を確かめるべく、機械式腕時計をスキャンしてみた時の画像。微細なパーツの1つ1つがくっきりと映し出された。

これまでになかった形を具現化できることが醍醐味

図版3
図3)独自の計算式を用いて、部品の凹凸形状を高精度で解析
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研究室では、他にもさまざまな研究に取り組んでいます。現物をデジタル化し、それを元にした新たな設計・生産手法の開発を目指す「現物融合型エンジニアリング委員会」という組織では、参画する多くの企業と共同研究を行なっています。この取り組みを通して、製品をデジタル化してコンピュータ上に再現し、フィジカルとサイバーをシームレスに融合させるデジタルツインの実現につなげたいと考えています。

また、3Dプリンタで使う3Dデータを手軽に作れるようにする設計支援ソフトの開発も進めています。幅広い人たちに工学の学びを提供することを目的に設立された『メタバース工学部』では、3Dプリンタや3Dスキャナを使ったワークショップをオンラインと対面で開催しました。

私はこうした研究や取り組みを通して、多くの人にデジタル化技術や画像処理の面白さに触れて欲しいと思っています。私の研究では、かつてない方法で機械の構造を可視化したり、誰も見たことのない形を3Dプリンタで具現化したりしています。そうしてできた物を実際に手に取ったり、目にしたりした時には何とも言えない感動を覚えます。学生の皆さんにも、ぜひ新しい形や画像を創り出す喜びを味わって欲しいと思います」(大竹教授)

(初出:2024年度精密工学専攻パンフレット)

※研究室ウェブサイト:
形状モデリング工学研究室

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