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ライフサイクル設計
真の「環境に配慮したものづくり」、設計を変革する新ツールで実現へ
ものづくりと環境問題が密接に語り始められたのは1990年代前半のことだ。作っては捨て、また作っては捨てる。これの繰り返しでは、環境に対する負荷は増え続けるうえに、資源は枯渇する。いずれ限界が訪れるのは明白だ。
その前に循環型社会へと移行しなければならない。そこで世界各地で、状況を改善する取り組みが始まった。先行したのは欧州だ。日本国内でも2001年に家電リサイクル法が、2005年に自動車リサイクル法が施行され、環境保全に対する意識は徐々に高まっている。
究極のフロントローディングを目指す
しかし、梅田教授は「環境保全に対する意識を高め、リサイクル率を向上させるだけでは不完全。ものづくりの設計段階からの対応が欠かせない」と指摘する。
例えば、モノには物理寿命と価値寿命がある。壊れて捨てられるのが物理寿命。スマートフォンなどのように買い換えで捨てられるのが価値寿命だ。価値寿命で捨てられるものを、頑丈に作っても意味はない。
つまり、製品を設計する前に、それがどのように使われ、捨てられ、リサイクルされるのかという製品ライフサイクルを把握し、それを設計作業の初期段階で考慮しなければならない。梅田教授は、こうした設計手法を「究極のフロントローディング」と呼ぶ。まだ、ものづくりの現場では究極のフロントローディングは実現されていない。しかし「いずれは実現される」と見ている。そのときに、どのような設計手法やツールが必要になるのか。それが梅田教授の研究テーマとなっている。
今回は2つの研究テーマを紹介する。1つは、製品ライフサイクル設計を支援するツールの開発だ。一般的な3次元CADに、製品ライフサイクルに関する様々な機能を盛り込む。例えば、製品設計時に経済性や環境負荷を評価する機能。さらには、製品寿命を短くして積極的にリサイクルするのか、長く使って最後に全材料をリサイクルさせるのか決める戦略決定機能。分解しやすい設計やリユースしやすい設計、モジュール化してアップグレードしやすくする設計を支援する機能などである。
この設計支援ツールは現時点では未完成であり、設計現場ではまだ使われていない。しかし、梅田教授は「将来的には、すべてのものづくりの現場で活用してもらいたい」としている。
社会の動きに敏感なアンテナが必要に
もう1つは、持続可能社会シナリオシミュレータの開発だ。これを使うと、例えば、スマート・コミュニティに蓄電装置を導入した際に、ピーク電力をどの程度カットできるかを算出できるようになる。
どう求めるのか。まずは、蓄電装置によるピーク電力カットのシナリオをXML文章で記述する。そして、シナリオの文章構造を論理的に解析し、前提条件とシナリオ、結論の論理的なつながりを明確化する。これを基にシミュレータを構成することで、前提条件の変化や新たな前提条件の追加によって結論がどう変化するのかを求めるわけだ。梅田教授によると、「現時点ではまだ、人手による処理が多い」という。今後は、さらなる自動化を進める。
持続可能社会シナリオシミュレータの研究には、社会の動きに敏感なアンテナが不可欠だ。社会に出ると、エンジニアにも文系のセンスが求められるケースが少なくない。そうしたセンスを磨くには最適な研究テーマだ。
(初出:2016年度精密工学専攻パンフレット)