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光コムによる超精密計測
長さと距離の計測精度が格段に向上
定規とGPSの間をつなぐ光の物差し


ものづくりにおいて長さや重さなどを精密に測ることは極めて重要だが、正確なデータを得るには正確な“物差し”がなければならない。2009年、日本の長さの国家基準が「光周波数コム(光コム)」に変わった。それまでの方式と比べて、精度は300倍も向上したという。
産業界への応用を前提とした最先端の研究開発
光コムは超短パルスレーザとファイバで発生させた幅広い帯域を持つ光のことを指す。レーザから発した時点では20ナノ秒間隔のパルス光だが、フーリエ変換によって、10−17メートル間隔にずらりと並ぶスペクトル列に変換される。等間隔にスペクトルが並ぶ様子は櫛(comb)のようにも見えるので、光コムと命名された。
松本弘一特任教授がチームリーダーを務めるプロジェクト「光コムを用いた空間絶対位置超精密計測装置の開発」1 では、光コムを光周波数の物差しに見立てて、その技術を応用した測定装置を開発している。
光コムの原理は以前から知られていたが、計測に応用するための技術が不十分で、装置開発には至っていなかった。ここへきてようやく知見が蓄積され、産業界への応用を前提とした計測装置の開発が始まったのである。

「産業界では工場の生産ラインにあるパーツの一つにレーザ光を正確に照射する、という使い方が可能です。また、航空機や発電所のような巨大建造物も、レーザを照射するだけで、全体の大きさから細かな部品の位置情報まで正確に測ることができます」(松本教授)
小さなものは定規や巻尺で測り、地球レベルならGPS(全地球測位システム)を使えばいい。その中間にあるサイズを正確に測定できるのは光コムだけである。
どこででも高精度の計測ができる日を目指して
さらに、光コムのパルスは高速化できるので、将来的には動いている物体も測定できるようになるという。たとえば、回転中のタービンを測定すると、静止状態では知り得ない変形の様子が明らかになる。「回転中はどこに、どの程度の負荷がかかる」という力学的情報は、タービンを設計する際に、大いに役立つことだろう。

また、光コムの情報は光ファイバで送れるので、理論上は回線さえ通っていれば、どこででも測定ができる。プロジェクトに三次元計測の専門家として参画する高増潔教授は「大規模な計測装置を導入するのが難しい中小規模の工場でも、光ファイバさえ通せば、高精度の測定ができるようになるでしょう」と語る。それを実現するために、高増教授らは工学部14号館の10階から地下1階まで光ファイバを通して実験を行い、遠隔地で計測するための要件を検討している。
光コムはいずれ間違いなく長さの国際基準になるものだ。現在、その応用研究で世界の最先端にいるのは日本であり、機器開発でも日本がイニシアチブを握ることができたら、世界のあらゆる産業の基盤を日本の計測機器が支えることになる。世界の計測技術をけん引する日本の挑戦は、今まさに佳境を迎えているのである。
(初出:2011年度精密工学専攻パンフレット)- JST産学イノベーション加速事業「光コムを用いた空間絶対位置超精密計測装置の開発」