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光製造科学
局在光エネルギー制御による
次世代ものづくり革命
太陽から降り注ぐ光のエネルギーにより地球上で生命体が誕生した。そして、光は我々を生み出しただけでなく、数々の恩恵を与えてくれる根本的なエネルギーとして存在しつづけている。しかし、人間は光に秘められた力をまだ十分に生かしきれていないと高橋哲教授は考えている。
「光は我々に与えられた究極の道具です。光を使って計測することも、加工することも、ものを動かすこともできる。特に微細なものを対象とするナノ分野で有効です。光の可能性を引き出すことで、大きな技術的飛躍があると期待しています」
高橋教授が最初に取り組んだ研究は、光による新たな計測技術の開発。優れた特性を持つ光だが、一つ大きな難点がある。それが回折限界だ。光は波としての性質を持っているため、その波長(約200nm)よりも小さなものを計測・観察することが難しいとされていたのだ。回折限界を超える微細な構造を見る方法としては電子顕微鏡が有効だ。しかし、真空環境が必要であったり、サンプルの下処理に手間がかかるなどのデメリットもある。そこで目指したのが、高度な計算機処理を行うことで回折限界を超えた光学的な計測を可能にする「局在光シフト再構成型超解像法」の確立だ。
特殊な光による超微細加工を実現
この研究で成果をあげた高橋教授は光を使った加工技術の開発にも着手した。
「光を物体に相互作用させることができれば加工が可能になります。計測の研究で培った光を緻密にコントロールする技術は、加工にも応用できるはず。そうした考えのもとに研究を進めました」
注目したのは、「エバネッセント光」という特殊な光だ。屈折率の異なる媒質間において、ある特定の角度で入射した場合のみ、光は全反射する。その際、低屈折率の媒質側に100nm以下というわずかな厚みで浸み出す光のことを指す。その極めて薄い光の層で樹脂を反応させて硬化し、それを積み重ねて微細な造形を作り上げることが研究の目標だ。
「難しい試みでしたが、学生の努力もあり、これまでにない光造形技術の実現に近づいています」と高橋教授。次世代ナノ機能構造の一括創出といった多様な派生的研究も進んでおり、実用化を見据えたユニークな展開が期待されている。
目指すは指先サイズの極小工場
近年、高橋教授が特に興味を持っているのが、"意思を働かせない技術" だという。
「飛ぶ、光る、発電する。人間が生み出してきたそれらの技術は、鳥やホタル、デンキウナギのように、自然界において遥か昔にすでに生物が獲得していたものです。積み重ねたり削ったり、意図的に加工するのではなく、自然に任せた自律的な計測方法や造形方法を実現すべく模索しています」
まだ研究は始まったばかりだが、いくつか成果も出ている。液体が蒸発していく過程で異物周辺に凝縮する特性を応用して基板上の微細なキズを検出する「自律的欠陥探索」、光を当てることで植物のように自然に微細な構造を成長させる製造技術がその代表例だ。
光を使ったさまざまな技術の開発に取り組む高橋教授が、その先に目指すのは指先サイズの極小工場を作ることだ。
「光を使えば計測、加工、ハンドリングといった作業がナノレベルで行えます。それらの機能を幅数10mm、奥行き数mmの中に凝縮することで、サイズ100μm以下の最終製品を製造可能にする『セルインマイクロファクトリー』を実現できると考えています」
極小にして壮大な夢を語る高橋教授。その目は、ブレイクスルーをもたらす一筋の光を常に探し求めている。
(初出:2019年度精密工学専攻パンフレット)