滑らかで透明な立体構造の3D計測を実現 − 蛍光を援用した新規三次元計測 −

東京大学大学院工学系研究科精密工学専攻の道畑正岐准教授、吉川元弥大学院生(修士課程2年:研究当時)、増井周造助教、高橋哲教授らによる研究グループは、透明で滑らかな表面を含む、従来は測定が困難であった対象物の構造を三次元的に計測可能な原理を提案し、実験により実証しました。
本研究では、蛍光を用いた測定物の表面センシング原理を確立することで、例えば、光学レンズのように透明かつ滑らかで急峻な表面を持つ構造の光学3D計測を世界で初めて実現しました。従来の共焦点顕微鏡などでは、このような表面からは光学応答が得られないため測定が困難でした。これに対し本研究では、全方向に放射される蛍光を応答信号として利用するという新たな手法を提案しました。本成果は、斜面や側面など従来検査が難しかった箇所の測定を可能とすることから、今後、精密部品(レンズ、金型など)の発展や評価に大きく役立つことが期待されます。
光センシングや顕微技術においては、滑らかで急な斜面の計測が最大の課題となっています。表面が滑らかな場合、測定には測定面からの正反射光を取得する必要があります。表面が水平に近い場合は問題ありませんが、斜面が急になると光が測定器に戻ってこなくなるため、測定が難しくなります。ただし、表面が粗く散乱光が取得できる場合は測定できるケースもあります。本研究では、測定物自身が放つ蛍光(自家蛍光)を取得することで表面を検出するという手法を提案しました。自家蛍光は広い範囲に放射されるため、急峻な面であっても測定が可能です。
蛍光を応答信号として測定面を検出する例はこれまでになく、本研究では新たに理論モデルを構築することで、得られた蛍光信号から測定面の位置を推定する手法を開発しました。水平面に関しては、測定面の位置を66nm以下の精度で検出することに成功し、0.2µm以下の斜面についても高い繰り返し精度が得られています。一例として、Blu-rayディスクのピックアップレンズの表面プロファイルを測定しました。このレンズは75°以上という急峻な斜面と、表面粗さが数nm以下という滑らかな表面を持つため、現状、測定が最も難しい対象の一つとされています。従来の測定方法では、対物レンズの集光角以上の斜面の測定は困難でしたが、提案手法では76°の斜面、また、83°のほぼ垂直面も測定することができました。
本成果は、光を用いた初めての三次元構造計測技術への展開が見込まれます。今後、光学部品のみならず、微細かつ高精度が求められる精密金型などの構造計測を高速に行えることが期待されます。さらに、蛍光を用いることで、将来的には測定対象の物性情報の取得も可能になると見込まれるなど、新たな3D光センシングの手法開拓につながる成果です。
- 論文:
Masaki Michihata, Motoya Yoshikawa, Shuzo Masui, Satoru Takahashi,
“Three-dimensional measurement of structures with smooth-steep-surfaces using autofluorescence confocal signal,”
CIRP Annals - Manufacturing Technology, vol. 74, issue 1 (2025) (in press)
https://doi.org/10.1016/j.cirp.2025.03.010 - 工学系研究科プレスリリース:
https://www.t.u-tokyo.ac.jp/press/pr2025-04-11-002
