• Home
  • ニュース一覧
  • コンパクトな集光ミラー光学系で軟X線のナノ集光を実現、島村勇徳(研究当時三村研D3)、森谷文香(研究当時神保研D3)、三村秀和教授ら

コンパクトな集光ミラー光学系で軟X線のナノ集光を実現、島村勇徳(研究当時三村研D3)、森谷文香(研究当時神保研D3)、三村秀和教授ら

2024年2月10日 icon

東京大学の島村勇德氏(研究当時、精密工学専攻三村研博士課程3年)・竹尾陽子助教・森谷文香氏(研究当時、同専攻神保研博士課程3年)・三村秀和教授・木村隆志准教授・榛葉健太准教授・神保泰彦教授、理化学研究所の志村まり博士、高輝度光科学研究センターの大橋治彦室長・仙波泰徳主幹研究員・岸本輝氏による研究グループは、コンパクトな集光ミラー光学系の開発によって、従来に無いX線の微細集光と蛍光顕微観察を実現しました。本研究は、精密工学専攻が得意とする超精密加工・X線分野と神経工学分野をかけ合わせたものです。

X線の中でも、軽元素や軽金属と強く相互作用する領域を軟X線と呼びます。これらの元素の高空間分解能な分析には、X線集光素子が重要です。ちょうど、虫眼鏡で太陽光を一点に集めると紙から煙が上がるように、X線集光素子でX線を微小点に集め、物理的・化学的反応が観察できます。この微小点で試料をなぞるようにして、2次元的な試料情報を高空間分解能で透視・観察できます。
 理想的なX線集光素子はX線集光ミラーです。しかし、軟X線はミラー表面の凹凸で容易に広がってしまうため、ミラーの反射面には、設計形状から原子レベルの誤差(1nm程度)しか許されません。この作製精度の厳しい要求が障壁となり、従来の軟X線用の集光ミラーは理論的性能から程遠いものでした。

本研究の転換点は、作製技術を改善する従来戦略に加え、集光ミラーの設計そのものも刷新したことです。作製精度が低い集光ミラーは、ミラー表面の凹凸でX線を散らしてしまい、本来狙うべき集光点にX線を集められていません。しかし、ダーツの的が近ければ中心点に当てやすいように、仮に標的となる集光点が極限まで集光ミラーに近ければ、多少X線の反射方向がズレてもX線は微小な集光点に収まります。つまり、理論的性能を達成しやすくなります。一方、従来、最長1mにまで到達する長い集光ミラーでは、ミラー本体が邪魔で集光点を近づけられません。そこで、従来設計の真逆を行く、ミラー長を最短2mmとして50倍急峻な形をした集光ミラーを考案し、図1に示す超小型集光ミラーを設計しました。
 この設計を実現するには、急峻な形を原子レベルの誤差(1nm程度)で実現する作製技術が新たに必要です。独自の加工・計測技術を開発し、本設計を具現化しました。作製した超精密小型集光ミラーによる集光点のサイズは、最小20.4 nmを記録しました。この集光点を多色軟X線分析手法に応用し、神経細胞中の元素量と濃度を100 nm空間分解能で評価し、その役割を示唆することに成功しました。従来、元素量の計測は重元素が主であり、軽元素量の計測は困難でした。また、試料中の元素濃度は、容易には計測できませんでした。設計・作製・集光技術・顕微手法での新規性を結集し、従来困難だった計測を神経細胞に対して実現しました。
 本研究によって、細胞中で新薬が到達する場所が可視化できる等、生物学・薬学・物理学での貢献が期待されます。コンパクトな光学系により、大型放射光施設に限定されたナノ分析をラボベースで行える可能性があります。
 本研究成果は、国際雑誌「Nature Communications」(2024年2月7日)にオンライン掲載されました。


論文:https://doi.org/10.1038/s41467-023-44269-w
共同プレスリリース:https://www.rcast.u-tokyo.ac.jp/ja/news/release/20240207.html
日本経済新聞:https://www.nikkei.com/article/DGXZRSP668012_V00C24A2000000/
日刊工業新聞:https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00701137

画像1

ニュース一覧