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付加製造科学

ものづくりの未来を変える
アディティブ・マニュファクチャリング 新野俊樹 教授

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本格的な社会実装を見据えて3Dプリンタの高性能化を目指す

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新野俊樹 教授(生産技術研究所)

 「三次元形状の立体物を実体化する方法には、大きく分けて次の3つがあります。1つめが、大きな塊から不要な部分を取り去って必要な部分だけを残す除去加工。2つめが、材料を計量し金型などを使って形を付与する成形加工。3つめが、必要な場所に必要な材料を配置し接合することによって形を得る付着加工です。それぞれ、メリット・デメリットがありますが、除去加工は取り除いた材料が無駄になる、成形加工は高価な金型が必要になるというのが主なデメリットです。その点、付着加工は、金型を使わず、必要な分だけの材料を使うため、合理的で効率的な加工方法と言えます。

図版1
図1)アディティブ・マニュファクチャリングによるPEEK樹脂製の義足ソケット。付加価値の高いものづくりで有用性を実証し、技術の向上を図る。

 付着加工を自動化した製造工程を付加製造、英語でアディティブ・マニュファクチャリングと呼びます。近年では、3Dプリンティングという名で広く知られるようになりましたが、研究室では、その付加製造技術の付加価値を高めることを目指しています。そのために取り組んできたことの一つが、高機能材料の加工です。現段階で最も理想的な材料の一つが、PEEK樹脂と呼ばれるものです。強度に優れ、耐熱性が高く、軽量なことから、航空宇宙や医療への応用が検討されています。このPEEK樹脂を粉状にしてレーザーで溶かし、冷やして固めるという作業を繰り返して材料を積層することで3次元物体を作っていくのですが、各工程を最適化することで技術の向上を図っています。

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 近年は高速化に向けた研究にも注力していますが、全く新しい技術を開発するのではなく、既存技術を組み合わせることで生産性を上げるというアプローチをとっています。これまでの3Dプリンタでは、細かい造形を実現するために、できるだけ薄い層を大量に積層していく方向性で性能の向上が図られてきました。するとその分、製造には多くの時間を要することになります。しかし、実際に製品を作る際には、それほど細かく作り込む必要がない部分もあるのです。例えば、絵を描く場合、すべてを細いシャープペンシルで描くのではなく、太いクレヨンを使って一気に塗りつぶしてしまってもいい箇所があるはずです。そのように、細かいところは薄く、そうでないところは厚く積層する方法を開発し、製造スピードを上げていくことを試みています。

図版2
図2)マルチマテリアル・アディティブ・マニュファクチャリングにより、樹脂に配線を組み込んだミニカー。LEDライトが点灯する

 これらの研究は、すべて付加製造の社会実装を目指して進められています。10倍のスピードで製造できる3Dプリンタが実現すれば、生産性が10倍に向上します。そうすると、付加製造で作られた製品の価格が大幅に下がり、広く応用できるようになるのです。付加製造の有用性を実証するためのものづくりにも取り組んでいます。2015年には、付加製造により圧倒的な付加価値を持った製品を作り出す『MIAMIプロジェクト』の一環として、強度が高く、軽量で、デザイン性の高い義足を開発しました。また、異なる素材を組み合わせて機能を持たせるマルチマテリアル・アディティブ・マニュファクチャリングという技術の研究にも取り組んでいます。例えば、樹脂と金属を同時に付加製造すれば、複雑な構造物の中に導線を設けることが可能になります。

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 付加製造はまだ技術としては黎明期にあります。今ではものづくりに欠かせない技術である射出成形も、はじめて開発されたのは今から150年前、現在のインラインスクリュー方式が上市されたのは70年前でした。私が子供だった50年前は今だったら射出成形で作るような物を金属のプレス加工で作っていました。そう考えると、今後、技術が発展していけば、付加製造もなくてはならない技術になるかもしれません。そんな未来を思い描きながら、これからも研究に取り組んでいきたいと考えています」(新野教授)

(初出:2023年度精密工学専攻パンフレット)

※研究室ウェブサイト:
付加製造科学研究室

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