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超音波デバイス工学

新たな超音波発生技術『DPLUS』で
超音波の可能性を大きく広げる 森田 剛 教授

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医療分野への応用をきっかけに様々な特性を持った超音波装置を開発

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森田 剛 教授(精密工学専攻)

 「現代社会では様々な用途で超音波が利用されています。身近なところでは、超音波洗浄器や車の衝突を検出する加速度センサーなどに使われており、医療の現場では身体を傷つけることなく体内の様子を観察する超音波エコー診断装置や、体外から腫瘍などを焼き切る『HIFU(高密度焦点式超音波)』という機器などに利用されています。現在の主な研究対象である超音波発生装置『DPLUS』も医療の現場のニーズを受けて開発しました。骨や健康な臓器を避け、患部に挿入して超音波を当てることで、より正確な診断ができる超音波発生装置を開発してほしいという依頼があったのです。

 そうしたニーズに応えるため、『DPLUS』には、細い針状の構造を採用しました。しかし、圧電素子のパワーはその体積に比例するため、単純に針の先端に圧電素子を設置しても弱い超音波しか発生しません。そこで、針の根元に2つの放物面を設け、超音波を2回反射させることにより、パラボラアンテナのように針部分に高効率で超音波を集束させる独自の構造を開発しました。これにより、細い針の先端から強力な超音波を発生させることが可能になりました。現在は、『DPLUS』を使った生体音響特性計測に取り組んでいるほか、細さを生かして、薬液を霧状にして鼻から吸引させる手法を検討するなど、医用工学分野への応用を進めています。

図版1
図1)センサ等の導入を可能にしたチューブ型DPLUSの構造。圧電素子から発生した超音波を放物面で2度反射させることで、針状の部分に集中させ、強力な超音波を生み出す。
図版2
図2)DPLUSの内部に薬液を通し、先端から霧状に放出することで、鼻から薬を吸引させる手法を検討。医療分野への応用も進んでいる。

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 針状の超音波発生装置を作ることを目標に開発した『DPLUS』ですが、思わぬ有用な特性を持っていることがわかりました。通常、強力な超音波を発生させる際には、電気を振動に変換する圧電素子を金属で挟み込むことで振動を増強させたランジュバン振動子という装置を使います。ランジュバン振動子は、確かに強力なのですが、長さによって周波数が変わるという特性を持っています。そのため、異なる周波数の超音波を発生させるには、異なる長さのランジュバン振動子を用意しなければなりません。しかし、『DPLUS』は、1つの装置で様々な周波数の超音波を発生させることができるのです。

 先に挙げた応用例のほか、超音波には骨折を早く治癒したり、植物の成長を促進するといった効果が確認されています。しかし、それに使われる超音波の周波数は、検討を重ねたうえで決められたものではありません。複数のランジュバン振動子を試してみることが難しいため、周波数による現象の変化を確認できていないのです。しかし、『DPLUS』を使えば、ある現象を引き起こすのに最適な周波数を効率よく調べることができるのです。研究室では、その特性を応用して、歯の切削や細胞への効果、脂肪の融解などに最適な周波数を特定する研究も進めています。


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 『DPLUS』にはもう1つのメリットがあります。1つの装置に2つの異なる電圧をかけることで、2つの周波数が混ざった様々な波形の超音波を発生させることができるのです。それにより、液体中に洗浄効果のある泡を発生させるキャビテーションの技術や、超音波で物体を浮上させる技術を大きく向上させられる可能性があります。

 私は研究を始めた当初、小型の超音波モーターの開発を目指していました。しかし、医療への応用をきっかけに開発した『DPLUS』から研究の幅が大きく広がっています。このように、思いがけない発見があることも様々な分野と関わることができる精密工学の醍醐味です。今後は新たに『超音波生物学』の分野を開拓するなど、超音波の可能性をさらに広げていきたいと考えています」(森田教授)

(初出:2023年度精密工学専攻パンフレット)

※研究室ウェブサイト:
超音波デバイス研究室

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