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i-Constructionシステム学

産官学連携の「i-Construction」で
建設現場のカタチを変えていく

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山下 淳 准教授
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永谷 圭司 特任教授

国土交通省が掲げる生産性革命プロジェクトのひとつ「i-Construction」が、2016年度から本格的にスタートした。ICTを全面的に活用した正確かつ効率的な新たな建設技術を導入する試みで、3次元測量を行なうドローンや自律制御建設機械など、最先端の技術が建設現場で活用される。その背景には、少子高齢化による慢性的な人手不足の解消や安全性の追求といった社会的な要請がある。産官学連携のこのプロジェクトに、東京大学からは社会基盤学専攻と精密工学専攻が中心となって参加。約270社の企業による協力のもと、2018年10月から3年間の期間で「i-Constructionシステム学」寄付講座が設置された。同講座で精密工学的なアプローチから、建設現場を変えようとしているのが、永谷圭司特任教授と山下淳准教授だ。

「社会基盤学専攻と連携し、ロボティクスやセンシングを駆使した新たな土木技術の開発を進めています。精密は常に時代のニーズを先取りし、最先端の工学研究を行ってきました。一方、社会基盤学は社会インフラの構築や防災対策など、人の生活と環境に関わる様々な分野を研究対象としてきました。そんなまったく異なる2つの分野が連携することで新たな学問分野を切り拓けるのではないかと期待しています」と山下准教授。

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図1 任意視点で建設機械の周辺を表示できる映像技術
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人間の感覚に依存しない施工方法を探る

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「i-Constructionシステム学」の研究分野は多岐に及ぶが、ロボティクスを専門とする二人が主に取り組んでいるテーマが、「サイバー空間における仮想建設システムの開発と新施工システムの創出」だ。
「『油圧ショベルによる掘削時の埋設物損傷回避動作の研究開発』をテーマに協同研究を行っています。建設の現場では地中の埋設物(水道管など)を傷つけないように土を掘り起こす必要があります。しかし、油圧ショベルを微妙に制御せねばならず、熟練した操縦者でないと作業が難しい。そこで埋設物のセンシングと油圧ショベルの自動制御を組み合わせることで、簡単かつ正確に、埋設物を傷つけずに掘削する技術を開発しています」と永谷教授。将来的には長く経験を積まずとも、誰もが熟練者に匹敵する高度な作業を行える時代になるかもしれない。それにより人材不足の解決や安全性の向上も実現する。建設業の概念を大きく変える可能性があるのだ。

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図2 掘削時に埋設管の損傷を防ぐ回避動作の例
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他にも、人間が熟練して身につけた感覚をセンシング技術で代替させる研究が行われている。
「トンネルや橋などのインフラの点検には、ハンマーで構造物を叩いた時の音で不良を診断する打音検査が用いられています。しかし、相当な手間と時間を要するうえ、経験に頼る部分があるため、定量化と省力化が求められています。そこで蓄積した打音データとの類似性を比較する音響信号処理とカメラによる画像処理を融合させることで、人間の聴覚に頼らない精度の高い検査方法を確立することを目指しています」(山下准教授)

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図3 画像処理と音響信号処理を融合させた点検手法

目指すは “建設現場の工場化”

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「i-Constructionシステム学」寄付講座での新たな挑戦に、永谷教授と山下准教授は大きな可能性を感じているという。 「精密工学はこれまで生産体制が厳密に管理された工場の中で育まれてきました。しかし今、我々は建設現場という屋外空間にフィールドを広げ、新たな社会のニーズに応えようとしています。建設現場は天候や地形などの環境に左右され、施工が進むごとに状況が変化します。そのように不確定要素が多く、誤差が生まれやすい中で、生産の現場で培ってきた精度を再現すること自体がひとつの挑戦であり、非常にやりがいを感じています。目指すのは、先端技術を使った高度な制御により“建設現場を工場化する”ことです」と山下准教授は展望を語る。

一方、永谷教授は、「学際的な研究により他分野への理解が進んだことで、我々の研究が想像以上に多くの分野に応用できることがわかりました。他で苦労していることを我々の知見で解決できるかもしれませんし、逆に我々の課題を解決する糸口を他の知見から得られる可能性がある。互いの領域を超えた研究ができる寄付講座の醍醐味を実感しています」と手応えを感じている。

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「i-Construction」のの研究において、日本は他国の追随を許さない独走状態にあるという。その背景には、島国ならではの急峻な地形で難工事が多いことや、地震や水害など大きな自然災害に見舞われてきたことから、必要に迫られて発展してきた実情がある。
「ロボティクスも、土木技術も、緊急時のために研究が進んだ面があります。しかし、そこで磨かれた技術は平時にも必ず生かされます。日本が率先している『i-Construction』は、将来、世界中に拡がり、現場を支えることでしょう」(永谷教授)

精密工学は「i-Construction」を通じて、建設現場という未知のフィールドに足を踏み出した。スケールは異なれど目指すところは同じ、最高レベルの精度だ。

(初出:2020年度精密工学専攻パンフレット)

※関連ウェブサイト:
東京大学大学院工学系研究科 「i-Constructionシステム学」 寄付講座

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