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バイオメディカル・エンジニアリング

分野横断的な研究を通じて
医療に貢献できる工学技術を開発

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佐久間 一郎 教授
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図1 心臓で発生する渦状の電気興奮を可視化

スーパーコンピュータによる超高速計算は、工学のみならず、物理学、化学、生物学など、さまざまな分野の科学の発展に貢献してきた。このように、工学技術の進歩は分野横断的に大きな恩恵をもたらす可能性を持っている。医学分野も例外ではない。医用精密工学研究室の佐久間一郎教授は、医学と緊密な連携を取りながら、工学的なアプローチで医療の未来を切り拓こうとしている。
「高性能な手術ロボットを開発しても、劇的に治療成績が上がるわけではありません。スキルの高い外科医と同等の手術が可能になるというレベルなのです。飛躍的に医療を進歩させるためには、新しい治療法と技術を組み合わせることが不可欠。そのため、工学の技術で病気の原因を探り、治療法を開発する研究にも積極的に取り組んでいます」

そのひとつが、佐久間教授の長年のテーマである心臓疾患の研究だ。不整脈が発生した際、心臓では複雑な電気的興奮が起きていることが知られていた。また、その現象が通電刺激や心筋焼灼によって抑えられることもわかっていた。しかし、それらの対処法は経験則に基づいたものであり、なぜ効果があるのかはわかっていなかった。そこで佐久間教授は、ウサギの摘出心臓標本を用いて不整脈現象の可視化に取り組んだ。高輝度LED照明を照射し、高速度カメラで撮影した画像に高度な処理をほどこすことで浮かび上がってきたのは、心臓全体を電気的興奮が渦のように伝播する様子だった。渦状の動きが可視化できたことで、正確な診断が可能になり、それを効果的に打ち消す方策を見つけることが期待できる。
「工学的な技術を応用することで、医学的な現象の理解を深められることを示す一例です。病気の仕組みがわかれば、治療戦略が立てられますし、新しいデバイスを開発することが可能になります」

重要なのは "何を実現すべきか"

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研究室では、臨床現場のニーズをもとにした研究ももちろん盛んだ。たとえば、外反母趾の手術。変形した骨を切断して矯正する方法が一般的だが、患者が仰向けになった状態で行われるため、立って歩くのに適切な形に矯正できているかどうか判断が難しいという実情が現場にあった。それを解決するために、まず起立状態で足の裏にかかる力を圧力センサーを用いて調査。そして、手術中の患者の足の裏に同様の圧力センサー付きのプレートを押し当て、力のかかり具合を起立状態のデータと比較することで精度の高い判断を可能にした。
「アナログな方法に思われるかもしれませんが、医療の現場でのニーズを満たすことができればそれは大きな成果です。学生には“何を実現すべきか?”ということをよく問います。実現すべき目標が果たせるなら、必ずしも複雑な機構は必要ありません。医師の意見を汲み取ったうえで、大きく発想を転換させることも工学分野の研究者の役割の一つだと考えます」

異分野融合で新たな可能性を拓く

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図2 心臓で発生する渦状の電気興奮を可視化

医学だけでなく生物化学の研究者とも共同研究を行うなど、佐久間教授は異分野融合を精力的に推し進めている。特殊なナノ液滴を付加した抗体薬をがん細胞に特異的に導入し、超音波により発泡させることでがん細胞のみを破壊する新たな技術の確立。それが現在の研究チームの課題だ。
「異なる分野の専門家とネットワークができることで、これまで不可能だった技術が実現できる可能性が高まります。カテゴリーに縛られない総合工学でより良い医療を実現する。それが、医用精密工学研究室のスタンスです」

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医工連携による相乗効果は数々の実を結んできた。
その枠組みをさらに広げることで医用精密工学は一層の発展を目指す。

(初出:2019年度精密工学専攻パンフレット)

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