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ナノテクノロジー

原子間力顕微鏡で元素識別を可能に 〜独自の工夫で世界一番乗りを目指す

顔写真
川勝 英樹 教授

人類が初めて、原子の観察に成功したのは1955年のことだ。ペンシルバニア州立大学のミュラー教授が電界イオン顕微鏡(FIM)を使って、原子の姿を目に捉えた。

それから約60年が経過した。その間に、原子間力顕微鏡(AFM)や走査型トンネル顕微鏡(STM)などが開発され、技術レベルは格段に向上した。しかし、そこに原子が存在することは把握できても、その原子の元素は何なのか。それを識別することはいまだ容易ではない。

AFM画像のカラー化に成功

川勝教授は、AFMを使って原子の元素識別に挑んでいる。AFMは、カンチレバーの先端にある微小な探針を原子に軽く接触させ、そのとき発生するカンチレバーの変化を検出することで、原子の有無を判別する。

図版
原子間力顕微鏡のスキャン画像をカラー化:
色で個々の原子の特徴の違いを表している。準結晶や3次元構造物の原子の可視化を目指している。

これに独自の工夫を盛り込んだ。それは、ある周波数でカンチレバーを振動させながら近づけるというもの。カンチレバーが原子に近づくと、その振動周波数が変化する。振動(音色)の変化は、原子の元素で違う。カンチレバーと原子の間に働く力の強さが元素で異なるためだ。

この現象を利用する。周波数の変化からカンチレバーと原子の間のポテンシャルを読み取り、距離の関数としてプロットする。すると、近づくにしたがってポテンシャルは減少し、ある地点で極小値を迎え、さらに近づくと急増する谷型のカーブが得られる。このカーブの谷の深さ、谷の幅、谷底の位置をパラメータとして解析する。

3つのパラメータに赤、緑、青の色を与えることで、試料表面をスキャンした画像をカラー化した。元素が既知の試料であれば、どの元素がどこに位置しているのかを特定できる。世界初の成果である。次に挑むのは、未知の試料における元素識別だ。既知の試料を使う実験を数多く重ねることで、世界一番乗りを果たす考えだ。

「分子のことは分子にさせればいい」

顔写真

川勝教授は、医療分野の研究にも取り組む。アルツハイマー病の診断に関する研究だ。

アルツハイマー病の発症には、タウ蛋白という物質が深く関与する。タウ蛋白とは、神経細胞がネットワークを形成し、情報を伝える際に必要な軸索を支えるマイクロチューブルを構成するもの。タウ蛋白に異常があるとマイクロチューブルがバラバラに壊れ、アルツハイマー病が発症する。つまり、マイクロチューブルの状態を測定できれば、発症しているか否かを診断できるわけだ。

3年の試行錯誤の日々が続いたが、問題解決の糸口が見つかった。決め手になったのは「分子のことは分子にさせればいい」という独自アイデアである。具体的には、キネシンという分子をカンチレバーや、その支持部に付着させる。こうすることで、カンチレバーを使って、マイクロチューブルを自動的に測定位置へ導けることになる。発症していれば、異変検知の可能性がある。こうして、分子とナノ計測を合体させた。

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LIMMS(フランス国立科学研究センターと生産技術研究所のマイクロメカトロニクスに関する国際共同研究ラボ)のディレクターも務める川勝教授の研究室は、自由闊達な空気に満ち、その研究ネットワークは世界全体に広がる。「当研究室には、やる気さえあれば、すぐに海外に飛び出せる環境がある。若いときに、世界に友を求めてほしい」(川勝教授)。

(初出:2016年度精密工学専攻パンフレット)