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デジタル・エンジニアリング

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鈴木 宏正 教授
X線CT装置が「ものづくり」の現場へ
画像処理技術を駆使して課題を解決

人間の体内をくまなく調べるX線CT装置。医療機関で利用された方も少なくないだろう。この装置の原理はこうだ。人体に照射したX線は、その一部が人体に吸収されながら透過する。この減衰したX線を検出器で受けて吸収量を求めることで人体を「輪切り」にした画像を得る。

「ものづくり」の進化をサポート

図版
1台のクルマを丸ごとスキャン:
ドイツのフラウンホーファー研究所が開発した大型のX線CT装置を使って、1台の乗用車をスキャンした結果だ。
©EZRT, IIS, Fraunhofer-Gesellschaft
www.iis.fraunhofer.de/de/bf/xrt/system/xxl-ct.html

この原理の応用分野は医療だけではない。電子部品や自動車のエンジンなどをスキャンし、形状を計測するという産業分野への適用も進んでいる。鈴木宏正教授によると、「X線CT装置を使った電子部品やエンジンの形状計測は実用化済みだ。現時点でまだ研究段階だが、自動車を丸ごとスキャンする取り組みも始まっている」という。

医療分野でX線CT装置を使う目的は明解だ。異常個所を見つけ、治療することにある。それでは、産業分野で利用する目的は何なのだろうか。鈴木教授は、「ものづくりにおける設計・製造業務のさらなる高精度化と信頼性向上」を挙げる。

ものづくりではデジタル化が著しく、CADやCAMで設計するのが一般的だ。これらを使えば、設計期間の短縮や設計品質の向上を実現できる。しかし様々な要因から、設計結果と製造結果は必ずしも一致しない。これは無視できない。省エネ化などで効率の限界を狙う設計が増えているからだ。このため両者の比較や確認が重要になってきた。そこでX線CT装置の出番となる。電子部品やエンジンを丸ごとスキャンして形状を測定し、設計データと照合する。「こうした作業を行えば、不具合の原因が設計にあるのか、製造にあるのかを特定できる。この結果、デジタル化だけでは不可能な製造した『もの』の品質向上を実現できる」(鈴木教授)。

画像処理の実践力が身に付く

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すでにX線CT装置は、ものづくりの現場で活躍している。しかし、決して完成された技術ではない。課題が残っている。その課題が鈴木教授の研究テーマになる。

具体例を2つ挙げよう。1つは測定速度だ。鈴木教授は、「将来は、X線CT装置を工場に複数台設置し、製造したものを全数検査する要求が出てくる」と見ている。測定速度を高めれば、必要な装置数が減り、コストを削減できる。測定速度向上のカギを握るのは、測定データの画像処理だ。新しいアルゴリズムの開発などで処理時間を短縮すれば、測定速度を大幅に高められる。

もう1つは、ミクロンオーダーの高精度化だ。計測画像にはアーチファクトという偽の画像が含まれる。そのままにしておくと、誤測定を招く。医療画像とは違い、産業応用では精度が命だ。そのため画像処理の段階での補正が不可欠になる。一般に、この補正は計算時間がかかるうえに、特殊な治具が必要になる。そこで鈴木教授は、新しい補正アルゴリズムなどの研究を進めている。

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産業用X線CT装置の研究では、画像処理が重要な役割を担う。この研究に取り組めば、ものづくりの知識を兼ね備えた、画像処理やプログラミングに強いエンジニアに育つ。今日、情報通信技術関連をはじめとする様々な産業分野で、こうしたスキルを持つ人材のニーズは高まる一方だ。

企業との共同研究が多く、研究は第一線で活躍するエンジニアと一緒に取り組む必要がある。それはまさに「エンジニアとして、人間として鍛えられる絶好の環境」(鈴木教授)なのである。

(初出:2014年度精密工学専攻パンフレット)