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常温接合

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須賀 唯知 教授
熱や圧力で材料を変質させることなく
物質本来のエネルギーを生かして接合

ものづくりの現場では物質と物質を接合する技術が欠かせない。たとえば、半導体チップの基板に電子部品を実装する際には「はんだ付け」という接合技術を使う。これは古くから使われてきた使い勝手の良い技術だが、熱で溶かした合金を接着剤のように使うため、熱に弱い材料には向いていない。また、はんだ付けした部分が脆くなったり導電性に劣ったりするほか、合金は錫と鉛からなるため、使えば使うほど環境負荷が心配される。

これらの課題を解決する手法として、須賀唯知教授は「常温接合」を提案する。原子間力によって物質と物質を直接くっつける世界に類のない技術であり、接着剤を使わず、熱や圧力も加えずに接合できるのが利点だ。

表面を活性化することで物質同士がくっつく!?

図版
表面活性化常温接合の原理
Principle of the surface activated bonding at room temperature

「金属の表面は酸化して安定な状態になっているため、金属同士を接触させても変化はありません。しかし、表面の酸化膜をナノスケールで削ってエネルギー活性が高い状態を作り出せば、界面で原子間力が働いて接合できます。原子間力は物質本来に備わるエネルギーですから、常温接合の原理は極めてシンプルだと言えます」

表面の加工にはアルゴンの不活性な原子ビームを使用する。須賀教授が20年以上前に研究を始めた当初は酸化を防ぐために、アルゴンの照射から接合までの全行程を真空中で行っていたが、現在は処理工程を工夫することで大気中でも接合できるようになった。

また、さまざまな物質を接合するための新たな手法も開拓されている。たとえば、ガラスやサファイアのようなイオン性物質の表面にはプラスのイオンとマイナスのイオンが不規則に並んでおり、同じ電荷同士が反発するせいで接合が難しかった。しかし、界面に鉄–シリコンのナノ密着層を挟み込むことで電荷の影響を抑えることに成功。見事、常温接合を実現した。

より完成された技術を目指して分離にも挑戦

顔写真

昨今産業界で問題になっているのは、半導体の微細化の限界による高コスト化や、性能・低消費電力化の停滞である。これを解決するために半導体や機構部品を三次元に集積するシステム化が注目されているが、従来の接合では小型化に限界がある。そこで期待が寄せられているのが常温接合だ。実用化するには製造コストなどの課題をクリアする必要があり、須賀教授は1997年設立の産学連携組織「電子実装工学研究所」の会員社とともに、産業への幅広い応用を目指して研究を重ねている。

また、須賀教授が実現を目指して取り組むテーマの一つが分離技術の確立である。半導体には希少金属を含む、さまざまな物質が使われているが、大半が再利用されずに廃棄処分されているのが実情だ。もしも糊付き付箋紙のように簡単に部品を分離できれば、使用済みの機器類のリサイクルが進むことだろう。「技術の双方向性や完結性という観点からも、常温接合とワンセットで簡易な分離を実現したい」と語る須賀教授。環境にやさしい夢の技術のさらなる進化に向けて、研究室の挑戦は続く。

(初出:2012年度精密工学専攻パンフレット)